白湯のブログ

若手(だと信じている)臨床検査技師が思ったこと・勉強したことをつらつら書くブログです。

あぷらぷらぷら。

今回は再生不良性貧血(aplastic anemia : AA)についてです。

 

職場だと「あぷら」って略すんですけど、響きが可愛くてつい口に出したくなってしまいます。

そういや"aplastic"ってどういう意味なんだろう?

と調べてみたら"再生不良性の"って出てきて「嘘つけ!」って思いました。

おそらく、

a-("否定"の接頭辞)

+ plastic("形を作る、形成力のある"という意味があるそうです)

ってことなんでしょう。

 

 

さて本題です。

 

AAは末梢血の汎血球減少と骨髄の細胞密度の低下(低形成)を特徴とする症候群です。

上記の特徴を有する疾患は数多くあるため、基本的には他疾患の除外により診断されます。

低形成MDSとの鑑別はしばしば問題になりますよね。

 

AAは何らかの理由で造血幹細胞が減少することで発症するとされています。

その理由によって先天性や薬剤性などに分けられますが、今回は 特発性 に限定して書いていきます(日本でのAAは大部分が特発性とのこと)。

 

 

「特発性」というのは要するに「原因不明」ということです。

特発性AAで造血幹細胞が減少する機序として考えられているのは主に次の2つです。

  1. 造血幹細胞自身の質的異常
  2. 免疫学的機序による造血幹細胞の傷害

 

免疫学的機序による場合は免疫抑制療法が奏功しますので、機序の推測が出来ると治療方針を決める一助となります。

 

そのために利用されるのが

微小PNH型血球の検出

です。

 

 

PNH型血球は発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)で増加するGPIアンカー膜蛋白欠損血球です。

フローサイトメトリーでCD59(-)CD55(-)血球として検出されます。

 

高感度フローサイトメトリーを用いると、健常者でのPNH型血球の割合は顆粒球で0.003%未満、赤血球で0.005%未満になります。

これを用いてAA患者の末梢血を分析すると約半数でこの閾値以上のPNH型血球が検出され、その場合は免疫抑制療法に対する反応が良いことが知られています。

 

 

ここでこう思った方もいるでしょう。

「PNH型血球が増えてると免疫抑制療法が効く、ということは免疫学的機序によるってことだよね。だとしても何でPNH型血球が増えるの?自己免疫とPNH関係なくね??」

 

 

実はPNH型血球って健常者でもごくわずかに存在してるらしいんですね(上記の閾値未満)。

これはPNH型造血幹細胞に由来するものです。

免疫学的機序の場合は造血幹細胞が免疫学的攻撃を受けますが、PNH型造血幹細胞は何らかの理由でその攻撃から免れられると考えられています。

その結果、正常型造血幹細胞が分化できない一方でPNH型造血幹細胞は分化を進めることが出来るわけです。

つまり「PNH型血球が増える」と言うよりは「正常型血球が減ることでPNH型血球の割合が相対的に増える」と理解した方が良いでしょう。

 

 

ちなみに染色体検査でdel(13q)単独陽性の場合はPNH型血球が全例で陽性であり、正常核型よりも免疫抑制療法の反応性が高いそうです。

その他にAAで頻度の高い染色体異常は8トリソミー、7番染色体の異常、6番染色体の異常などです。

このうち7番染色体異常ではAMLに移行するリスクが高いです(7番染色体異常はMDSでも予後不良因子ですよね)。この場合の発症機序は造血幹細胞の質的異常によるものと思われます。異常クローンが少ないうちに早急に造血幹細胞移植を行う必要があります。

 

 

AAの中にはPNHに移行する症例もあるそうで、これは免疫学的攻撃から逃れられたPNH型造血幹細胞がクローン性に増殖することで発症すると考えられています。

またMDSの中にも微小PNH型血球が検出される症例があるようで、その場合も免疫抑制療法の効果が出やすいそうです。

PNH型血球って奥が深いですね……。

これ以上つっこむと私の理解を超えてしまうので、ひとまずこの辺で止めておきます。

 

 

今回の参考資料は

再生不良性貧血診療の参照ガイド 2018年改訂」

です。

こちらからPDFに飛べます。

http://zoketsushogaihan.com/download.html

とても勉強になったので興味のある方は是非。

 

 

最後に余談ですが、この診療ガイドの筆頭著者である金沢大学の中尾眞二先生は再生不良性貧血の大家だそうで、今回の検査血液学会でもAAについての特別講演をしてくださるようですね。楽しみです。

できれば現地でお聞きしたかったですけど……オンデマンド配信でゆっくり聞けるので良しとします。

 

 

今回は以上です。

参考になれば幸いです。