故郷に帰ろう、ああ懐かしきフィラデルフィア
フィラデルフィア(Ph)染色体をご存知でしょうか。
Ph染色体は9番染色体と22番染色体の相互転座
t(9 ; 22)(q34 ; q11)
により生じた変異22番染色体のことです。
この染色体転座により22番染色体上にBCR-ABL1融合遺伝子が生じます。このキメラ遺伝子が恒常的な活性型チロシンキナーゼとして作用し、細胞を過剰に増殖させます。
学生さんは
く(9)に(2)に(2)帰ろう、フィラデルフィアへ
と覚えましょう。笑
このPh染色体が発見されたのは1960年だそうで、
発見者はペンシルベニア大学医学大学院のP. Nowellとフォックス・チェイス・がんセンターのD. Hungerfordです。
この両名の所属施設がどちらもアメリカのペンシルベニア州フィラデルフィアにあることから「フィラデルフィア染色体」と名付けられたそうです。*1
CMLでは造血幹細胞レベルでPh染色体が生じますが、細胞の分化能は保たれているため全ての分化段階の血球(主に顆粒球系)が増加します。
これを「白血病裂孔がない」と表現します。
しかしPh染色体陽性でも白血病裂孔がある≒芽球の増加が見られる疾患があります。主に次の3つです。
今回はこれらの鑑別について書いてみます。
まずは簡単なMPALから。
MPALは2系統以上の分化傾向を示す急性白血病であり、急性白血病の2~5%を占める稀な疾患です。
2系統の芽球が混在する場合 (bilineage leukemia) と芽球が2系統の表面形質を併せ持つ場合 (biphenotypic leukemia) の両者を合わせてMPALに分類されます。
このMPALで最も多くみられる遺伝子異常がPh染色体です。
なぜこれの鑑別が簡単か、と言いますと
診断には表面マーカーが重要だから
なんですね。
WHO分類には骨髄系・B細胞系・T細胞系それぞれの細胞系統同定のための条件が記載されています。
この条件はほぼ表面マーカーです(詳細はこの場では割愛します)。
これら3系統のうち2つ以上に合致すればMPALとなります。
検査結果が届く順番としては
- 形態学的検査
- 細胞表面マーカー検査
- キメラ遺伝子検査
- 染色体検査
となりますので、4でPh染色体の有無が分かる前(2の時点)に診断のアタリがついちゃいます。
そのため、他の疾患との鑑別は容易であると思われます。
次にCML急性転化とPh陽性de novo白血病の鑑別について。
まずCML慢性期の既往があった人で芽球が増えてしまったのなら、CMLの急性転化と考えて良いでしょう。
白血球数増多の既往がない or 検査データがない場合は困りましたね。
上述の1~4の検査だけでは鑑別が不可能です。
ここで登場するのが
【末梢血好中球FISH】
です。
これはFISH法でBCR-ABL1を検出するのですが、大きな特徴として
単核球と分葉核球に分けて陽性率を算出する
点が挙げられます。
CMLは造血幹細胞にPh染色体が生じているため、全ての白血球でBCR-ABL1が陽性になります。
慢性期ではPh陽性血球の分化能が保たれていますが、ある分化段階に二次的変異が入って分化能を失い、その細胞(≒芽球)が異常増殖することで急性転化となります。
そのため、CML急性転化では
単核球(≒芽球)と分葉核球(≒成熟好中球)のいずれもBCR-ABL1が陽性になります。
一方、de novo白血病の場合は背景にCMLがありませんから、Ph染色体が見られるのは芽球だけです。
したがって単核球のみBCR-ABL1陽性となり、CML急性転化との鑑別が可能になります。
CML急性転化とde novo白血病の鑑別は、特にリンパ芽球が増えていた場合に重要になります。
Ph陽性ALLは頻度が高いので要注意です。
ただしCML急性転化は骨髄系の方が多いみたいですけどね(骨髄系が約70%)。
ちなみにPh陽性de novo AMLというのもごく稀にあるようです。
WHO分類2016から暫定病型として新たに記載されました。
治療方針は、CML急性転化でもde novo白血病でも通常の白血病としての化学療法にチロシンキナーゼ阻害剤を併用する形になると思われます。
前者の場合は移植が選択肢の上位に入ってきますかね。急性転化しちゃうと予後不良なので…。
最後にポイントをまとめます。
→末梢血好中球FISHが有用!
CML急性転化…単核球:陽性、分葉核球:陽性
de novo白血病…単核球:陽性、分葉核球:陰性
以上、つらつらと備忘録を兼ねて書きました。
ご参考になれば幸いです。